結論:モバイルバッテリー1本では1日ももたない
停電したとき、スマホは情報収集・安否確認・照明・地図を1台で兼ねる最重要インフラになる。だからこそ「充電をどう確保するか」が防災の最優先課題になるのだが、ここには広く誤解がある。
カタログの「10000mAhで3回充電」は、まず実現しない。
理由を数字で説明する。そして「家族4人で3日」という現実的な目標に対して、何をいくつ用意すべきかを最後に示す。
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mAhではなくWhで考える
モバイルバッテリーの容量表記「10000mAh」は、電池セルの公称電圧3.7Vを基準にした数値だ。電力量(Wh)に直すとこうなる。
10,000mAh × 3.7V ÷ 1,000 = 37Wh
ところがモバイルバッテリーは、この3.7Vを5V(USB)や9V/15V(USB PD)に昇圧して出力する。この変換で必ずロスが出る。一般に20〜35%程度が失われるとされ、実際に機器へ届くのは概ね 25〜30Wh になる。
一方、スマホ側のバッテリーも同じ計算をすると:
| 機器 | 電池容量の目安 | 電力量 |
|---|---|---|
| 一般的なスマホ | 4,000〜5,000mAh | 約15〜20Wh |
| タブレット | 8,000〜10,000mAh | 約30〜38Wh |
| ノートPC | — | 約50〜70Wh |
つまり 10000mAhのモバイルバッテリー(実効25〜30Wh)で、スマホは1.5回前後。「3回」という表記は、小容量のスマホを空から満充電まで理想条件で充電した場合の理論値に近い。
※上記はいずれもメーカー公称値・一般的な公開情報からの概算であり、編集部が実機で計測した数値ではありません。機種・使用状況により変動します。
「家族4人・3日」に必要な電力量を出す
農林水産省は家庭備蓄について最低3日分、できれば1週間分を推奨している(出典: 農林水産省「家庭備蓄ポータル」)。この物差しをスマホの電力に当てはめる。
前提:1人1日1回の充電(約20Wh)。停電時は輝度を落とし通話・SNS中心に使う想定。
| 人数 | 1日 | 3日 | 1週間 |
|---|---|---|---|
| 1人 | 20Wh | 60Wh | 140Wh |
| 2人 | 40Wh | 120Wh | 280Wh |
| 4人 | 80Wh | 240Wh | 560Wh |
ここに変換ロスを見込むと、4人×3日で実質300Wh前後の備えが要る。
モバイルバッテリーで賄おうとすると破綻する
300Wh ÷ 実効27Wh = 約11本。10000mAhのモバイルバッテリーを11本、しかも全部満充電で維持し続けるのは現実的ではない。
だから288Wh級のポータブル電源が基準になる
前回の記事でも触れたが、防災用ポータブル電源が「288Wh級から」と言われるのは、まさにこの計算が背景にある。
**Anker Solix C300(288Wh/定格300W/約4.1kg)**は、スマホ充電だけなら4人家族の3日分をほぼ丸ごとカバーする容量だ。USB-C 140W×2を含む8ポートを備えるので、家族全員のスマホを同時に挿せる点も停電時には効いてくる。
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3層で備えるのが正解
とはいえ「ポータブル電源1台あればいい」という話でもない。避難のフェーズによって使える道具が変わるからだ。
第1層:常にカバンの中(モバイルバッテリー 10000mAh)
外出先で被災したときに手元にあるのはこれだけ、という状況が普通にある。普段から持ち歩いているかどうかが全てで、容量より携帯性が優先される。
Anker PowerCore Fusion 10000のようなACプラグ一体型は、平時はコンセント充電器として使い、そのまま持ち出せば満充電のモバイルバッテリーになる。「防災用に別途用意して忘れる」という失敗を構造的に防げるのが利点だ。
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第2層:自宅の在宅避難(ポータブル電源 288Wh〜)
在宅避難が可能なら、ここが主戦場になる。前述のとおり4人×3日をカバーできる容量が目安。
第3層:最終保険(手回し・ソーラー充電の防災ラジオ)
電気が完全に尽きた後でも、情報と灯りだけは確保するための層だ。多機能防災ラジオは手回し発電・ソーラー・乾電池・USBの複数系統に対応し、LEDライトとSOSサイレンを兼ねるモデルが主流になっている。
ただし正直に書いておくと、手回し発電でスマホを実用的に充電するのは無理がある。出力は数W程度で、1分回して得られるのは通話数十秒分といった水準だ。この層の価値は「AMラジオが聞ける」「ライトが点く」ことにある。スマホの電力は第1層・第2層で確保すべきだ。
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スマホの消費を減らす4つの設定
備えを増やすより先に、消費を減らすほうが即効性がある。停電したらまずこの4つを実行したい。
- 画面輝度を最低付近まで下げる — 有機ELなら黒基調のダークモード併用でさらに効く
- 使わない時間は機内モード — 基地局が被災していると、スマホは電波を探して消費が跳ね上がる。これが最大の落とし穴
- バックグラウンド更新をオフ — SNSやメールの自動取得を止める
- 省電力モードを常時オン — バックグラウンド処理と一部の視覚効果が抑制される
特に2番目は効果が大きい。圏外/電波が弱い状態を放置するのが、停電時に最も電池を無駄にするパターンだ。安否確認のタイミングを決めて、それ以外は機内モードにしておく運用が現実的だ。
まとめ
- 10000mAh=37Wh、実効25〜30Wh。スマホ充電はカタログの「3回」ではなく1.5回前後が現実
- 家族4人×3日=約240Wh、ロス込みで300Wh前後が必要。モバイルバッテリーだと11本相当で破綻する
- だから288Wh級のポータブル電源1台が防災の基準線になる
- 3層で備える:カバンの中の10000mAh/自宅の288Wh級/最終保険の手回しラジオ
- 手回し発電でのスマホ充電は緊急用。ラジオの価値は情報と灯りにある
- 停電したら機内モード。備えを増やすより消費を減らすほうが早い
「モバイルバッテリーを1本持っているから大丈夫」という感覚は、数字にすると3日どころか1日で崩れる。まずは自分の家族構成で上の表を当てはめてみてほしい。