モバイルバッテリーの側面が膨らんでいる、ケースの合わせ目が開いてきた、机に置くとカタカタ揺れる。ここまで来たら、そのバッテリーの役目は終わりである。まだ充電できるかどうかは関係ない。
厄介なのは、その先だ。膨らんだバッテリーは、普通のごみには出せない。そして、家電量販店の回収ボックスにも入れられない。この記事では、今すぐやること、やってはいけないこと、2026年時点で実際に使える捨て方のルート、そして次に買うときの考え方を順にまとめる。
結論:使わない・充電しない・金属容器に隔離し、自治体かメーカーへ
- 膨らんだ時点で使用も充電も中止する。NITEは、膨張・変形などの異常がある製品は直ちに使用を中止するよう呼びかけている
- 押さない、穴をあけない、分解しない、使い切ろうとしない。いずれも内部短絡と発火の引き金になる
- ふたのできる金属製の容器に入れ、燃えやすい物から離して保管する(NITEの案内)
- JBRC協力店の回収ボックスには入れない。JBRCは膨張・破損・水濡れした電池を回収対象外としている
- 出し先は自治体かメーカー。環境省は2025年4月15日、家庭のリチウムイオン電池を市区町村が分別回収するよう通知し、膨張品は別に回収・保管することを求めた。2026年4月1日からは法改正でメーカー等の自主回収も求められている
- 次に買うなら、リン酸鉄・ナトリウムイオン・準固体といった安全寄りの電池を選択肢に入れる
今すぐやること:気づいてから5分の手順
- ケーブルを抜く。充電中なら充電器から、給電中ならスマホから外す
- 電源ボタンがあっても操作しない。残量確認のために何度も押す必要はない
- 燃えにくい場所へ移す。布団、ソファ、カーペット、紙の上から離し、タイルやコンクリート、金属のトレーの上へ
- ふたのできる金属製の容器に入れる。NITEは「モバイルバッテリーが膨らんでしまった際は、金属製の容器にふたをして密封」することで、万が一発火した場合の延焼被害を低減できるとしている。家庭ではふた付きの金属缶や鍋が使いやすい
- 高温にならない場所で保管する。車内、窓際、直射日光、暖房器具のそばは避ける
- メーカー名と型番、購入時期を控え、リコール対象でないか確認する。消費者庁のリコール情報サイトやメーカーの製品回収ページで検索できる。リコール対象なら、メーカーが回収・交換の手順を用意している
- 自治体またはメーカーに連絡し、処分の段取りをつける(後述)
発煙や異臭、異常な発熱がすでに起きている場合は、近づかずに避難と通報を優先する。
危険サインの見分け方
膨張は、目に見える最後のサインに近い。その手前で気づけるものもある。
| サイン | 状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 外装が膨らむ、合わせ目が開く | 内部でガスが発生している | 使用中止。隔離して処分へ |
| 平らな机でカタカタ揺れる | わずかな膨張の初期 | 使用中止。隔離して処分へ |
| 充電中・使用中に触れないほど熱い | 内部抵抗の増大、異常発熱 | すぐ外す。冷めても再使用しない |
| 甘い、または薬品のような異臭 | 電解液が漏れている可能性 | 触れずに換気。使用中止 |
| 落とした、踏んだ、へこみがある | 内部が損傷している可能性 | 見た目が無事でも様子を見る。異常があれば中止 |
| 満充電してもすぐ空になる | 劣化が進んでいる | 買い替えどき。膨張前に正規ルートで処分 |
| 充電が異常に遅い、途中で止まる | 保護回路が働いている可能性 | 繰り返すなら使用中止 |
NITEが2025年3月に実施したアンケートでは、リチウムイオン電池搭載製品のヒヤリハット・事故経験として**「膨らんだ(変形した)」が最多**で、「熱くなった」「発火した」が続いた。膨張は珍しい故障ではなく、もっとも身近な前兆である。
なぜ膨らむのか
リチウムイオン電池の内部には、可燃性の有機溶媒を使った電解液が入っている。電池が劣化したり、高温にさらされたり、過充電・過放電の状態に置かれたりすると、この電解液が分解してガスが発生する。モバイルバッテリーに多いラミネート型(パウチ型)のセルは柔らかいフィルムで包まれているため、ガスが溜まるとそのまま膨らむ。
膨らんだ電池の内部では、正極と負極を隔てる薄いセパレーターに無理な力がかかっている。ここに外から圧力や衝撃が加わって正極と負極が直接触れると(内部短絡)、一気に大電流が流れて発熱し、その熱がさらに反応を進める熱暴走に至る。「膨らんだ電池を押してはいけない」理由はこれである。
NITEは、車内放置や直射日光下での使用・保管、充電中に熱がこもる状態での使用が電池内部の劣化を進め、内部短絡や熱暴走の要因になると説明している。膨張の主な原因を整理する。
- 高温:夏の車内、窓際、布団の中での充電
- 衝撃・圧迫:落下、踏みつけ、ズボンの後ろポケットに入れたまま座る
- 経年劣化:充放電の繰り返しと、使わずに放置した時間の両方で進む
- 過放電での長期放置:空のまま引き出しに数年入れていた、という個体は要注意
- 製造上の不具合:リコール対象の製品。NITEはリコール製品からの発火事例を継続的に公表している
NITEによると、2020年から2024年の5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1,860件で、そのうち約85%にあたる1,587件が火災に発展した。事故は気温の上がる6月から8月にピークを迎える。
やってはいけないこと
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 押してへこませる、重い物を載せる | セパレーターが破れ、内部短絡から発火する |
| 穴をあけてガスを抜く | 内部短絡を起こす。空気中の水分と反応して発火することもある |
| 分解して電池を取り出す | JBRCもモバイルバッテリーは本体のまま回収するとし、分解しないよう求めている |
| 使い切るために充電と放電を繰り返す | 充電で反応が進み、発熱・発火の危険が上がる |
| 燃えるごみ・不燃ごみ・プラごみに混ぜる | 収集車や処理施設で押しつぶされて発火する |
| JBRC協力店の回収ボックスに入れる | 膨張品は回収対象外。ボックス内や輸送中の発火につながる |
| 塩水に漬ける、冷凍庫に入れる | 公的機関が案内している方法ではない。腐食やガス発生の恐れがある |
| 飛行機に持ち込む、宅配便で黙って送る | 損傷した電池の輸送は制限される。送る場合は送り先の指示に従う |
| 車内や屋外の物置に放置する | 高温でさらに劣化が進む |
「使い切ってから捨てる」という案内を見たことがある人もいるだろう。経済産業省の審議会資料でも、モバイルバッテリーは使い切った上で排出することで発火の可能性を下げられる、という業界の取り組みが紹介されている。ただしこれは正常な電池を捨てるときの話である。膨張した電池に対して充電や給電を続けることは、使用中止というNITEの案内に反する。膨張品は、残量があってもそのまま隔離して出し先に相談する。
捨て方のルート比較:膨張品はどこに出せるか
ここが最大の落とし穴である。「モバイルバッテリー 捨て方」で調べるとまず出てくるJBRCの協力店は、膨張品を受け付けていない。
| ルート | 正常な電池 | 膨張・破損した電池 | 費用 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| JBRC協力店(家電量販店・ホームセンター等) | 会員企業製なら可 | 不可 | 無料 | リサイクルマークの有無ではなく会員企業製かどうかで判断される |
| 市区町村の回収 | 多くの自治体で可 | 自治体による。窓口に確認 | 多くは無料 | 環境省は膨張品を別に回収・保管するよう求めている |
| メーカーの回収サービス | メーカーによる | メーカーによる。サポートに確認 | 送料負担の場合あり | 2026年4月から法律上もメーカー等の自主回収が求められている |
| 携帯ショップ・量販店の独自回収 | 店舗による | 多くは不可 | 無料 | 事前に電話で確認する |
| 不用品回収業者 | 業者による | 業者による | 有料 | 一般廃棄物の許可の有無を確認。無許可業者は避ける |
JBRC協力店:正常品なら第一候補、膨張品は不可
JBRCは、小型充電式電池のメーカーや使用機器メーカーが共同で回収・再資源化を行うために2001年に設立した団体で、経済産業省の資料によれば会員は約400法人。モバイルバッテリーの回収は2017年4月に始まり、60社以上の会員企業の製品を回収している。
回収対象は、JBRC会員企業製の、ニカド電池・ニッケル水素電池・リチウムイオン電池で、破損・水濡れ・膨張などの異常のないものに限られる。JBRCは、外装が破損・変形・膨張・液漏れしたものは回収できないと明記している。また、判断基準はリサイクルマークの有無ではなく会員企業製かどうかである。ノーブランド品や会員外メーカーの製品は、正常でも協力店に出せない。
市区町村:2025年4月の環境省通知で流れが変わった
環境省は2025年4月15日、全国の市区町村に対し、家庭から出るリチウムイオン電池を標準的な分別収集区分の一つに位置づけるよう通知した。背景には、ごみ収集車や処理施設での火災がある。環境省によれば、リチウムイオン電池が原因とみられる火災は令和5年度に全国の市区町村で8,543件発生し、その時点で分別回収を実施していた市区町村は75%にとどまっていた。
この通知と同時に示された方針・対策集では、膨張・変形したリチウム蓄電池等は、他の電池とは別に回収・保管することが望ましいとされている。つまり国の方針としては、膨張品も自治体が受け止める方向にある。
ただし、実際の運用は市区町村ごとに異なる。清掃事務所の窓口へ持ち込み、有害ごみの日に別袋で排出、拠点回収ボックスへ、膨張品は個別相談、などさまざまだ。自治体のごみ分別ページで「リチウムイオン電池」「モバイルバッテリー」を検索し、膨張品の記載がなければ電話で「膨張している」と伝えて確認するのが確実である。
メーカー回収:2026年4月から法律上の位置づけが変わった
2026年4月1日、改正資源有効利用促進法が施行された。具体的な製品を定める施行令の改正は2025年12月12日に公布され、モバイルバッテリー(電源装置)、携帯電話、加熱式たばこデバイスが、メーカーや輸入販売事業者に自主回収と再資源化が求められる「指定再資源化製品」に追加された。
経済産業省の方針として報じられた内容では、対象はモバイルバッテリーなら年間の生産・輸入販売量が1,000台以上の事業者で、取り組みが不十分な場合は勧告や命令の対象になる。一方で、施行日にすべてのメーカーが一斉に回収を始めるわけではなく、2026年4月以降、各社が順次回収方法を案内していく段取りとされた。
利用者にとっての意味は単純だ。「メーカーに聞く」が正式な選択肢になった。製品の型番を控え、メーカーのサポートページで「回収」「リサイクル」を探す。たとえばアンカー・ジャパンは、自社のモバイルバッテリーとポータブル電源を対象に、保証期間切れ、故障・破損した製品、正規取扱店以外で購入した製品も含めて回収するサービスを設けている(元払いでの送付、他社製品は不可)。膨張している場合は、発送前に必ずサポートへ状態を伝え、梱包と送付方法の指示を受けること。
膨張品を出すときの具体的な手順
- 型番とメーカーを確認する。本体の印字か、購入履歴から調べる
- リコール対象か確認する。対象ならメーカーの回収手順に従う。これが最も早く、費用もかからない
- 自治体のごみ分別ページを確認し、膨張品の扱いが書かれていなければ電話する。「モバイルバッテリーが膨張している。どこへ、どう出せばよいか」と聞く
- 自治体で受けられない場合はメーカーのサポートへ連絡する
- 出すときは端子をテープで絶縁する。USBポートなど金属が露出している部分にビニールテープや養生テープを貼る。JBRCも排出時の絶縁処置を求めている
- 他の電池やごみと混ぜず、単独で、指示された容器や袋に入れて出す
- 持ち込む場合は、直前まで金属容器に入れ、高温の車内に放置しない
もし発火したら
NITEは、リチウムイオン電池搭載製品が万が一発火した場合、大量の水で消火し、可能な限り水没させた状態で119番通報するよう案内している。少量の水では不十分で、火花が激しく飛び散っているあいだは近づかない。火勢が収まってから大量の水をかけ、バケツなどに沈める。煙は有害なので吸い込まず、換気と避難を優先する。消えたように見えても再発火することがあるため、水に沈めたまま消防の指示を受ける。
PSEマークの意味と、買ってはいけない製品
モバイルバッテリーは、2019年2月1日から電気用品安全法(PSE法)の規制対象である。これ以降、技術基準に適合し、PSEマークと届出事業者名などが表示された製品でなければ、国内で製造・輸入・販売できない。
確認するポイントは3つある。
- 丸形のPSEマークがあるか。本体に印字されている
- マークの近くに事業者名が書かれているか。事業者名がない、または販売ページの会社名と一致しない製品は避ける
- 定格容量と定格電圧の表示があるか。Wh(ワット時)の表示は、飛行機への持ち込み可否の判断にも必要になる
PSEマークは最低限の入口であって、膨張しない保証ではない。NITEが呼びかける3つのポイントは、正しく購入する(信頼できるメーカー・販売店から買い、リコール情報を確認する)、正しく使用する(高温下に放置しない、強い衝撃を与えない)、正しく対処する(異常を感じたらすぐに充電・使用を中止する)である。
次に買うなら:安全寄りの電池という選択肢
膨張を経験した人には、電池の種類から選び直すことを勧める。2026年時点で、一般的なリチウムイオン電池以外の選択肢が国内メーカーから複数出ている。
| 製品 | 電池の種類 | 容量・出力 | 実売価格の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| エレコム DE-C39-12000 | リン酸鉄リチウムイオン | 12,000mAh(38.4Wh)・PD 20W | 約4,500円〜 | 充放電サイクル約1,000回。約310g |
| エレコム DE-C55L-9000 | ナトリウムイオン | 9,000mAh・PD 45W | 約6,900円〜 | サイクル約5,000回、−35〜50℃で使用可(エレコム公表) |
| オウルテック OEC-LPB10024 | 準固体 | 10,000mAh・PD 30W | 約4,980円 | 電解質をゲル状にして液漏れ・発火リスクを抑える設計 |
| MOTTERU 準固体モバイルバッテリー | 準固体 | 10,000mAh・PD 30W | 約6,860円 | 国内メーカーのダイレクトショップで販売 |
価格は2026年9月時点の楽天実売である。
リン酸鉄リチウムイオンは、正極にリン酸鉄リチウムを使う。結晶構造が安定していて、高温になっても酸素を放出しにくいため、熱暴走を起こしにくい。エレコムのDE-C39-12000は、一般的なリチウムイオン電池の約2倍にあたる約1,000回の充放電サイクルをうたう。代償は重さで、12,000mAhで約310gある。また定格電圧が3.2Vなので、同じmAh表記でもWhは一般的な3.7V品より小さい(12,000mAhで38.4Wh)。
ナトリウムイオンは、リチウムを使わない別の化学系である。エレコムのDE-C55L-9000は約5,000回のサイクル寿命と、−35℃から50℃という広い使用温度範囲を公表している。冬の屋外や車載で使う人には意味がある。なお、JBRCの回収対象はニカド・ニッケル水素・リチウムイオンの3種であり、ナトリウムイオン電池は含まれない。廃棄時はエレコムの案内に従う必要がある。
**準固体(半固体)**は、可燃性の電解液を減らしてゲル状にしたものだ。液漏れと発火のリスクを下げつつ、リン酸鉄ほど重くならない。各社が「燃えにくい」と訴求しているが、発火しないことを保証するものではない点は押さえておきたい。
いずれを選んでも、PSEマークと事業者名を確認すること、JBRC会員企業の製品を選んでおくと将来の処分が楽になること、この2点は変わらない。
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膨張させないための使い方
- 夏の車内に置かない。ダッシュボードだけでなく、グローブボックスやトランクも高温になる
- 充電しながら布団やバッグの中に入れない。熱がこもる
- 落としたら、しばらく様子を見る。発熱や変形がないか数日は気にかける
- 長期保管は空でも満充電でもなく半分程度で。数か月に一度は残量を確認する
- ズボンの後ろポケットに入れたまま座らない
- 3〜4年使った、または持ちが明らかに悪くなった個体は、膨らむ前に正規ルートで処分する。正常なうちならJBRC協力店にも出せる
最後の点は重要である。膨らむ前なら捨てるのは簡単で、膨らんだ後は一気に難しくなる。引き出しに眠っている古いモバイルバッテリーは、今のうちに回収に出したほうがよい。
まとめ
膨らんだモバイルバッテリーは、使用も充電もやめ、押さず、あけず、ふたのできる金属容器に入れて燃えやすい物から離す。ここまでがNITEの案内に沿った初動である。
捨て方は、JBRC協力店が膨張品を回収対象外としている点をまず押さえる。出し先は市区町村かメーカーで、環境省は2025年4月の通知で膨張品を別に回収・保管するよう求め、2026年4月施行の改正資源有効利用促進法でメーカー等の自主回収も制度に組み込まれた。運用は自治体・メーカーごとに違うので、「膨張している」と伝えて確認することが最短経路になる。
次に買うときは、PSEマークと事業者名、JBRC会員企業かどうかを確認し、リン酸鉄・ナトリウムイオン・準固体という選択肢も検討するとよい。